労働関係・社会保険関係の法令や人事・労務管理問題に関する
タイムリーな話題を取り上げていきます。
示せるか社会保障の将来像 若い世代も安心な全世代型へ
 現在、少子・高齢化時代における「全世代型社会保障」のあり方の検討が進められています。昨年9月には安倍首相を議長とする第1回目の「全世代型社会保障検討会議」が開催され、近い将来、高齢者人口がピークに達する中にあっても、持続可能な年金、医療、介護の制度の構築に向けた議論が交わされています。
 社会保障給付費は「団塊の世代」が75歳以上になり始める2022年から年金、医療、介護などで増加が加速し、財政を圧迫することが見込まれています。2018年度の給付費は約121兆円(GDPの21.5%)ですが、「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年度には約141兆円(同21.8%)となり、さらに65歳以上人口がピークを迎える2040年度には約190兆円(同24.0%)程度になると推計されています。
 このため、同検討会議では、2022年以降を見据え、意欲ある高齢者が納税、社会保険料負担で社会保障の支え手となるよう、70歳まで働ける制度やその環境整備を検討するとしています。また、年金制度では受給開始年齢の選択肢を70歳超へと拡大させるほか、短時間労働者の厚生年金加入対象者の拡大などが進められそうです。
 医療・介護の分野でも、後期高齢者の窓ロ負担増や、介護サービスの自己負担増などが検討の狙上にあがるようです。
 安倍政権は、今回の全世代型社会保障に向けた改革を、2012年の「社会保障と税の一体改革」に続く大型改革と位置づけており、今年の通常国会に高齢者の就業機会確保制度や年金、介護の制度改正について改正法案を提出するとしています。ただし、社会保障給付の抑制を進めない限り、財政を維持できないとの見方もあるなか、若い世代も安心できる実効性のある社会保障の将来像を示すことが期待されています。
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副業容認が半数に迫る 法的整備が普及の前提に
 政府は、副業・兼業の促進を重要課題として掲げていますが、民間企業の意識にも変化がみられるようです。経団連が、会員企業等を中心に実施した「2019労働時間等実態調査」によると、兼業等を認めている企業、認める方向で検討中の企業の合計がほぼ半数を占めました。
 内訳をみると、「認めている」(16.9%)、「認める方向で検討中」(2.9%)、「懸念事項が解消すれば認める方向で検討中」(29.0%)となっています。
 一昔前までは、「自社での業務がおろそかになる」等の懸念から兼業を禁止する企業が大半でした。しかし、今回、調査では、「自社では提供できない経験によるアイデア創出」「主体的なキャリア形成」「優秀人材の定着」等のメリットを指摘する企業が増えています。
 懸念事項としては、「労働時間の通算規定の順守が困難」「安全配慮義務(過労死等)への懸念」等が上位に挙がっています。厚労省では、通算規定の見直し作業を進めていて、そうした法整備の動きも今後の企業行動に大きな影響を及ぼしそうです。
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パートの社保加入で議論開始 段階的に規模要件を引下げか
 パートに対する社会保険の適用拡大ですが、いよいよ法改正に向けた議論が始まります。
 企業規模501人以上の大企業については、既に平成28年10月から、加入要件が週の労働時間20時間以上その他に拡大されています。次のターゲットは、中小以下の企業です。
 遡ると、適用拡大の話は西暦2000年代に入った頃に始まりました。その後、「ねじれ国会」など政治の問題もあり、紆余曲折を重ねましたが、「年金機能強化法」の成立により、大企業での実施が決まりました。
 当然ながら、「その後、中小・零細企業をどうするか」という問題が生じます。改正法の附則では、「平成31年(令和元年)9月30日までに検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講じる」と定められていました。
 そういう意味では、拡大はいわば既定路線です。法改正論議が本格化する直前の9月、厚労省設置の検討会(働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会)が報告を発表します(本稿執筆時点では、議論の整理の段階)。
 検討会の名称からも分かるとおり論点は「企業規模要件の引き下げ」「加入条件のさらなる緩和」「第3号被保険者の取扱い」「複数就労者への適用」など多岐にわたります。
 しかし、焦点が「規模要件」にあるのは明白です。財政面だけみても、厚生年金の保険料率は年々引き上げられてきましたが、平成29年で頭打ちです。収入増には、被保険者の拡大が欠かせません。
 一方、中小・零細企業では、社会保険料の負担増は企業経営に直接的な影響を及ぼすので、その緩和策が求められます。
 段階的な引下げが穏当なところでしょうが、どのようなスケジュール案が提出されるか、今後の議論から目を離せません。
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最賃引上げ目安は27円 今年度も過去最高を更新
 令和元年度の地方最低賃金ですが、全国平均で900円台に乗せました。経過をたどると、中央最低賃金審議会は、7月末に最低賃金改定の目安に関する答申を行いました。引上げ幅は全国平均で27円(昨年度26円)で、「昭和53年度に目安制度が始まって以来」の最高額を更新しました。率では、3.09%(同3.06%)相当となります。
 その後、都道府県労働局の地方最低地方審議会が答申を取りまとめましたが、改定額の全国加重平均額は901円となりました。目安を超える引上げ幅だった県は19に上ります。
 新聞等では、「東京・神奈川で初めて1000円を超えた」などと報じていました。最低賃金の目安は全国を4ランク(AからD)に分けて示されます。
 東京はもちろん最高のAランクで、目安どおりの28円が平成30年度の985円に上乗せされたので1013円となりました。
 経済が「力強さに欠ける」状況にある中、最賃の引上げピッチはかえって加速している感があります。中央最賃審議会の答申は、厚労大臣の諮問に答えるものです。7月初めに行われた大臣諮問では、「経済財政運営と改革の基本方針2019等に配慮した審議」を求めていました。
 同方針(いわゆる骨太方針2019、6月に閣議決定)では、「この3年、年率3%程度引き上げられてきたことを踏まえ、より早期に全国加重平均が1000円になることを目指す」とうたっていました。今後の「景気や物価動向」次第ですが、まだこの傾向は続きそうな見通しです。
 なお、今回の目安決定では、「地域間格差への配慮の観点から、最高額に最低額の比率を上昇させる」点にも重点を置いています。最賃の引上げ目安のDランクでは、前年の引上げ幅は23円でしたが、今年は26円にアップしていました。
 答申結果でも、最高の東京と最低県(15県)の格差が16年ぶりに1円縮小し、223円となりました。
 新しい地域最賃は、令和元年10月1日から10月上旬までに発効の予定です。
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進む手続きのワンストップ化 生産性向上へ政府が側面支援
 政府は、事業者の生産性向上を後押しするため、行政手続きコスト(手続きに要する事業者の作業時間)の削減を推し進めています。厚生労働省でも、令和元年6月に基本計画の再改定を行いました。
 課題の一つとして、「ワンストップ化の実現」が挙げられています。
 現在、たとえば従業員を採用すると、労働・社会保険の加入手続きを取りますが、制度によって様式・届先が異なります。
 作業時間の短縮のために、「届出契機が同一のものについては、ワンストップでの届出が可能となるよう」仕組みを整備するというものです。法律の改正作業が進行中で、令和2年1月にも改正施行規則が施行される方向です。
 この手の改善は掛け声倒れに終わりがちですが、今回、政府はかなり本気で取り組んでいる感じです。
 それはともかく、厚労省の「ワンストップ化問題」には相応の背景があります。平成13年に、中央省庁再編により、厚生省と労働省が統合され、厚生労働省が誕生しました。
 それまで、社会保険(健康保険と厚生年金)は厚生省、労働保険(労災保険と雇用保険)は労働省が管轄していました。当然、双方の仕組みには異なる点が多々あり、役所の窓口も異なっていました。
 役所の統合に伴い、将来的な労働・社会保険の一本化が課題として浮上します。
 たとえば、平成21年には、労働保険の年度更新と社会保険の定時決定について、期限を統一するといった改正も実施されています。
 しかし、まだまだ「先は長い」という印象は否めません。そうした中、今回のワンストップ化は「着実な一歩」です。政府が掲げる各種の改革には、企業に対して負担を課すものもありますが、こうした手続き面の改善は大歓迎といえるでしょう。
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