労働関係・社会保険関係の法令や人事・労務管理問題に関する
タイムリーな話題を取り上げていきます。
扶養は「国内居住」が要件に 日本人の家庭モデルにも影響
 現在、開催されている通常国会ですが、労働実務に関連する法律改正案(3本)は順調に審議が進んでいるようです。そのなかで「健康保険法等の一部を改正する法律案」がトップを切って成立し、既に公布されています。
 健保法改正案は、「被保険者資格の情報を一元的に管理する仕組みの創設」等を目的とします。あまり実務と関係ないようですが、「被扶養者等の要件の見直し」という項目が入っている点がミソです。
 改正法では、被扶養者を「日本国内に住所を有するもの(略)その他日本国内に生活の基礎があると認められるもの」と定義しています。これは、今年の4月から施行されている改正入管法(特定技能資格を創設)を意識した措置である点は明らかです。
 改正案の成立に合わせ、国会では附帯決議が出されています。前記の「国内居住要件」に関しては、「国籍による差別とならないように」とクギを指しています。それと並んで注目されるのが、「年収がほぼ同じ夫婦の子について、いずれの被扶養者とするか、被扶養認定の具体的かつ明確な基準を設定すること」という一文が付されていることです。
 現在は、「子等の人数にかかわらず、年間収入の多い方の被扶養者とすること」が原則とされています(昭60・6・13保険発66号)。
 基本的には、「片方の被保険者(大多数は男性)が配偶者・子供を扶養する」パターンを想定した規定という印象を受けます。特別な事情のある家庭に関しては、片方の被保険者を女性と読み替えて対応する形です。
 しかし、男性・正社員、女性・パートという図式が大きく崩れる中、「片方に一括する」という対応がそぐわなくなってきているのも事実です。これを契機に、扶養の在り方全体についてさらに議論が深められることを期待します。
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有給休暇管理簿
 平成31年4月以降、年休の付与日が到来した人から、年休管理簿を作成し、3年間保存する義務が課されています(労基則第24条の7)。必要データの出力が可能なら、分割することもできます。
 管理簿には、「年休を与えた時季」、「日数」、「基準日」を記載します。日数には、半日単位で取得した回数と時間単位で取得した時間数の両方を含みます(ただし、年休の年5日消化義務を考える際には、時間単位年休分はカウントされませんのでご注意ください。)。
 管理簿には、「法定の年休が与えられるすべての労働者」に関する情報を記載します。付与日数が10日未満の労働者(使用者による5日の時季指定の対象とならない労働者)についても、管理する必要があるので要注意です。
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国は外国人受入を積極推進へ 自社の基本スタンス見直しを
 改正入管法が施行され、「特定技能資格」の外国人雇用がスタートしました。
 年月が経ってから振り返ると、「2019年度は、労働政策の大きな転換点だった」と総括されるようになるかもしれません。
 仕組みの受け皿となる改正入管法案自体は、昨年の秋、国会審議ーカ月余という「突貫工事」で成立しました。しかし、その後は、着々と外国人の受入れ環境整備が進められています。
 現在の通常国会には、健保法改正法案が提出されています。主要な内容は「被保険者情報の一元管理」等ですが、「被扶養者要件の見直し」に関する項目も含まれています。今後、外国人の被保険者増が見込まれる中、被扶養者は原則として「日本に住所を有する者に限る」としています。
 労働施策総合推進法(従来の雇用対策法)では、国の重要施策の一つとして外国人の適正雇用を掲ず、それに基づき「外国人雇用管理指針」を策定しています。
 この指針も、今年の4月に抜本改正されました。働き方改革関連法など、最新の法改正情報を盛り込むと同時に、「母国語を使った分かりやすい説明」等の配慮に関する事項を追加しています。
 法整備だけではありません。特定技能資格者のうち、農業・漁業については、派遣形態も可能とされています。既に農業分野に外国人材を派遣する専門会社を設立し、サービス開始を目指している県もあるということです。
 多民族国家の紛争等をみていると、個人的には外国人の多数受入れに危機感を抱く方も少なくないでしょう。しかし、経営者の立場からは、外国人雇用を積極推進する「同業他社との競合」という問題を看過できません。外国人労働力とどう向き合うか、各企業は自社の戦略を長期的観点から練り直す必要があるでしょう。
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一直線に行かない副業の拡大 法整備には十分な時間が必要
 働き方改革の課題の一つとして、「副業・兼業の促進」が挙げられています。会社側にとっても、「副業を通じた創業・新事業の創出や中小企業の人手不足対応」といった効果を期待できます。
 ダブルワークの環境を整えるため、労働・社会保険の整備も課題となっています。厚生労働省では、このほど、雇用保険に関する検討会の報告書を公表しました。
 一つの方向性として、「複数事業所の週所定労働時間が20時間以上になった時点で、本人申出に基づき加入させる」等の案を示し、試行的な制度運用を行うのも有力と提言しました。
 ただし、総論としては「新しい仕組みの対象となるマルチジョブホルダーの数は少数で、事務コスト等も考慮すると、保険給付よりは求職者支援制度や職業訓練で対応するのが適当」という見解を表明しています。
 政府は熱を入れて旗を振りますが、事務方は「雇用保険の制度全体を大きく変えるには、少し時期尚早」と後ろ向きの姿勢をみせている感じです。
 会社組織等でも、トップが懸命に新方針を打ち出すのに対して、従業員が保守的な見解に固執するという図式がしばしば生じます。まさに、「笛吹けど踊らず」です。
 しかし、事務方の厚労省も、現行体制のままで副業・兼業の拡大に対応できない点は痛切に感じているようです。
 たとえば、別の検討会では「副業・兼業の場合の労働時間管理」に関する研究を進めています。労基法第38条では、「複数事業場の労働時間通算」について定めていますが、その解釈に関しては未確定な部分が少なくありません。
 こちらの方面でスッキリした考え方が提示されれば、企業実務の現場でも対応方針を決めやすくなります。次の検討会報告は、労務担当者にとって注目です。
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いよいよパワハラも法制化へ 予防の前提は上司の意識改革
 厚生労働省の労働政策審議会では、パワーラスメント防止対策に関する審議を進めています。
 逆にいうと、今はパワハラが明文の法律で規制されていないということです。しかし、これはペナルティーを受けないという意味ではありません。裁判では、民法の使用者責任や債務不履行責任等の規定により、慰謝料等の支払いが命じられています。
 それでは何をやるかというと、セクハラやマタタラと同様に、指針を定めて、事業主に対してパワハラが発生しないように必要な措置を講じる義務(措置義務)を課そうというのです。
 新たに措置義務を定めるとどうなるかというと、これがまた分かりにくい内容となっています。たとえばセクハラについては均等法11条に規定がありますが、「作為・不作為の請求権や損害賠償請求権を与えるような私法上の効力を持つものではない」(菅野和夫「労働法」)と解説されています。
 しかし、均等法には紛争の解決援助の仕組みが設けられていて、セクハラ関係のトラブルも、都道府県労働局長の助言・指導、調停の対象になります。
 今回、議論されているパワハラ防止対策でも、指針の策定と併せて、調停制度、助言・指導に関する規定も整備するという案が示されています。
 セクハラの場合、会社の上層部がそれを支持するというのは、あり得ません。しかし、成績至上主義の企業風土の中では、パワハラに目をつぶる(容認する)経営者・上司がいないと言い切れるでしょうか。セクハラマタハラが法制化されたのは、ぴったり受け皿になる法律(均等法・育介法)があったからという側面もあります。パワハラをどう法律に組み込むかは今後検討される予定ですが、早めの対策が望まれるところです。
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